この記事では、校正・校閲のトライアルで頻出の罠を紹介します。
第2回のテーマは固有名詞です。
厳密には固有名詞ではないものの、組織が独自に「唯一の正解」を定めている場合もあるので、あわせて解説します。
トライアルで問われるのは、実務でよく遭遇する問題点を見逃さない能力です。
例えば、翻訳工程で発生しがちなミスであったり、見逃されてしまうと目立つ誤りだったりします。
ここでは翻訳物の校正・校閲作業を前提として書きますが、翻訳者としての作業の見直しや、日本語だけの文章の編集の際にも、重要なチェックポイントであるかと思います。
トライアルを受ける方以外も、ぜひ参考にしてください。
人名
英訳する際には、日本人の名前はローマ字で綴るのが通常です。
このとき、名前の読み方に罠が仕掛けられていることが少なくありません。
例えば、釣りバカ日誌の主人公・浜崎伝助は、「ハマザキ」と呼ばれると、「ハマサキです」と言い返します。
また、辻仁成氏は、小説家としてはヒトナリ、映画監督としてはジンセイを名乗っています。
「普通はこう読む」と思っても、油断しないほうがよいでしょう。
東海林という苗字は、ショウジと読みたくなりますが、山形県ではトウカイリンと読む家庭が多いそうです。
さらには、私の学生時代の同期生に、上田と書いてアゲタと読む人がいたことがあります。
組織名
堀江貴文氏が創業した、ライブドアの前身である会社は、オン・ザ・エッヂです。
しかし、エッヂをエッジと書かれたり、中黒が抜けたりする間違いが多かったため、エッジと改称されました。
知っているつもりの会社名も、注意が必要です。
食品会社のキューピー、オフィス用品で有名なシャチハタの正式表記は、それぞれキユーピーとシヤチハタです。
発音するときは拗音ですが、小書きにはしません。
もっとも、企業情報として記載するときは正式な表記をするべきでしょうが、会話文の一部である場合や、お客様の声のような箇所では、発音に従って書くのが妥当ではないかと思います。
英訳の場合、株式会社を表す表現として、Co., Ltd、Corp.、Inc.などがあります。
どれが適切かという問題はともかく、その会社が選んだものが正式な表現です。
INC.のように大文字で書かれる場合もあるので、企業の公式webサイトなどで確認しましょう。
特にCo., Ltdは、コンマの有無や、コンマの後のスペースの有無にも注意しましょう。
役職名
社長を英訳するとpresidentでしょうか? それとも最近はCEOでしょうか?
これも、その会社が使っている表現が正解です。
課長や係長などについても同様です。
これらは、辞書を引けばわかるというものではありません。
会社という制度も各役職の重みや役割も、国や組織によって異なります。
そのため、どの英訳が自分たちに相応しいか、各企業が選択することになります。
国際的な企業であれば、英語版のHPを用意してあることが多く、役員の名前や役職を表す英語も載っているかもしれません。
下位の職員の場合は調査が難しくなりますが、企業が発行した書類などを参照し、相応しい表現を探しましょう。
法令や制度
トライアルでは、日本の法令や制度に、もっともらしい英訳がつけられていることがあります。
原文と訳文を比較すると、確かに語句が対応していて、特に違和感もありません。
そうした場合でも、官公庁が発行した資料で別の訳語が使われていれば、そちらを優先するのが基本です。
法令については、日本法令外国語訳データベースシステムというwebサイトがあります。
目的のものが収録されていない場合もありますが、チェックしておくとよいでしょう。
最後に
この記事では、トライアルに頻出の罠として、次のものを紹介しました。
人名
組織名(小書き、中黒やコンマ、株式会社の英訳、大文字・小文字)
役職名
法令や制度
この記事で挙げたものは、主として、翻訳者によって変わる余地のないものです。
油断すると足を掬われるので、公式HPなどを愚直に確認することが重要です。
これらの点に気をつけながら、トライアル突破に向けて頑張りましょう。